作品解説

普天間基地の移転先などをめぐり、いまだに混迷が続く沖縄問題。その裏には日本とアメリカの間に交わされた密約により、返還費用などの処理問題がうやむやにされてきた事実があった。日本政府は国民に真実を告げなかったばかりか、その事実を報道しようとした新聞記者と外務省事務官を国家公務員法違反で裁いた。記者は1審では無罪になったが、高裁で逆転判決が下り、最高裁で「秘密を洩らすようそそのかせた」罪で有罪が確定した。日米間の密約をめぐる政治責任が「情を通じ…」の起訴状で男女の問題にすりかえられ、政府は「密約などはない」とシラを切りとおしてきた。真実を報道しようと取材源に密着した記者は記者生命を断たれ、取材に協力した女性事務官は職を失い、家庭は崩壊した。
本作はノンフィクション作家の澤地久枝さんが裁判を傍聴し続けて書いた原作を、千野皓司監督がテレビ朝日開局20周年記念番組として1978年に製作した力作。「原作者である女性の視点から深く政治問題を掘り下げた質の高い秀作ドラマ」と評判になった。民放テレビではタブーとされた政治問題を扱った作品としても反響を呼び、日本テレビ大賞優秀賞を受賞したが、その後1度も放映されなかった。10年後の88年に一部の劇場で映画として公開され、モスクワ国際映画祭にも正式出品された。その後アメリカ側の文書が発見されて政府の欺瞞が発覚した。「国民の知る権利か」それとも「国家の秘密保護か」、激しく意見が対立した裁判の息詰まる描写を通じて、国家とは何かを問いかける渾身の作品だ。近年、山崎豊子さんが別の視点で書いたフィクション「運命の人」がベストセラーになるなど、日米の密約問題は国民の一大関心事になっている。今改めて見直し、国民全体で権力の実態について考えるべきではないだろうか。

写真:筈見事務官 石山記者 法廷内